看板

ちょっと昔のことですが、去る3月22日(土)、MIKIKOさん振付のダンスインスタレーション「モザイク」を観に行きましたので、個人的な感想を書いていこうと思います。

elevenplay「モザイク」

2014年3月21・22・23日スパイラルホール(東京・青山/スパイラル3F)
Perfumeの振付・ライブ演出で有名なMIKIKOさんがディレクションするこの公演は、elevenplayのダンサーによる美しい身体表現と、最新テクノロジー演出が合わさったステージです。
elevenplayの公演の見たのは今回が初めてでしたが、なんというか、見ていてすごく「心地のいい」公演でした。
新しく刺激的で、なおかつ人間らしさに溢れていました。

振り付けを担当しているアイドルからも花がきていました。

振り付けを担当している女性アーティストからも花がきていました。

elevenplayとは?

elevenplayは、Perfumeなどアーティストの振付師として有名なMIKIKOさんが振付やディレクションを行う、女性ばかりのダンスカンパニーです。
http://elevenplay.net/
ジャンルは特定のものだけを踊っているわけではありませんが、雰囲気としてジャズやバレエの要素が強いです。
テクノロジーを使った演出に積極的に取り組んでいて、過去にはメディアアートに力を入れている山口情報芸術センターでの公演も行っています。

↑プロジェクションマッピングを動く対象物に当てる。きっとものすごい正確さが求められることでしょう!

↑ダンサーとレーザーはどういう関係なのか?敵なのか?味方なのか??と勝手にバックグラウンドを想像してしまいます。

↑女性が「顔」にフォーカスした作品作りをしていると、意味ありげでドキッとしますね。

「モザイク」について

この公演は、elevenplayの単独公演になります。
Perfumeのテクノロジー演出でもお馴染み真鍋大度さんをはじめ、Rhizomatiksの方々が参加しテクノロジー演出も健在。それに加えて、言葉の担当として西加奈子さんが参加していたのも見所の一つでした。

客層として多かったのは20〜30代またはそれ以上の世代。性別は女性が多いといった印象。極端に偏っている印象もありませんでした。
ファッションはオシャレな方が多かったですが、ダンサーっぽい雰囲気の人は多くなく、場所が青山だっただけに、青山の街を歩いている人たちをそのままランダムに連れてきたようなだと感じました。

ダンス系の公演だとダンス経験者が多く来場しているイメージがありますが、この公演では「インスタレーション」だけに、ダンスファンだけでなくアートやテクノロジーに興味のある層が多かったように思います。
ダンス界ではおなじみファミリー接骨院から花が出ていて、エンドロールやパンフレットにも名前が載っていたのですが、それらを見て「接骨院から花がくるんだ」「接骨院の名前が載るんだ」と物珍しそうに会話をしているお客さんをチラホラ見かけたことからもそう思います。

ファミリー接骨院
送られた花ではPerfumeから来たものの写真を取る方が多かったこと、Perfumeののっちのようなスタイリングの女性がいたことから、Perfumeから興味を持った層も来場していたように思いました。

さて、内容の方はというと、ステージには下図のように様々な物がおいてあります。これらがすべてダンスに使用されていきます。
モザイク会場図

公演の中身

公演のはじまりは、病院をイメージさせるダンスではじまりました。ダンサーはナース風衣装を着用し、壁にはバイタルをイメージした映像が移されます。
ダンサーはマネキンのようなちょっと不自然な動きで踊ります。椅子に座って踊るダンサー、ストレッチャーに乗るダンサー、ストレッチャーに乗ったダンサーに注射をするダンサー。ナースと患者の役割を流れ作業のようにクルクル変えていきます。機械的、無機的、そしてスタイリッシュなイメージ。

ナース衣装でのパフォーマンスというと、私は世代的に椎名林檎の「本能」のPVを思い出します。

とはいっても、こういった退廃的・破壊的なイメージではなく、洗練されていて女性らしさを感じるものでした。動きの中には、ストレッチャーの上で体が痙攣したり、注射を力いっぱい刺すという動きがあるので、表現自体が生ぬるいわけでは決してなく、若干の病的な雰囲気を感じるところもあるのですが、あくまで女性らしいかわいい要素が残っていて、そのバランスが絶妙でした。
一番たくさん舞台上に物が置かれている状態で踊るのが冒頭のこのナースの作品です。そして、その後公演が進むつれ、次々に使われた道具はステージからはけていきます。なのでどんどん物がはけていき、ある時点でステージ上がすごくシンプルな状態になるのですが、そしてどうなるか!? という部分も含めて、公演全体の構成上の伏線になっていきます。

テクノロジー演出

elevenplayといえばテクノロジー演出が有名ですが、本作でもさまざまな取り組みがされていました。プロジェクターで映像を映すもの、舞台上に置いた複数のディスプレイに映像を映すもの、垂直離陸するラジコンと一緒に踊るもの、などなど。
中でも一番ドキリとさせられたのが、カメラを装着したダンサーの視界がステージ壁面に映しだされる作品です。
他のダンサーがステージで踊っている中、1人のダンサーが頭部に機械をつけて花道に登場します。ダンサーは花道中央に用意されたボックスに座り、舞台の方を向きます。このダンサーのつけている機械にカメラが取り付けられていて、彼女の見たもの、つまりステージの様子が壁にほぼリアルタイムで映し出されます。
そうすることで舞台の後ろに、(映像ですが)もう一つ舞台があるように感じられ、今までいたスパイラルホールの空間が全然違うものに感じられる面白さがありました。

カメラをつけたダンサーは頭部をゆっくりと左右に動かすので、映像の中には時に客席が映ります。それがまた、見る側だった人がの姿が舞台に上映され、見られる側に回るので、立場が逆転するような不思議な感覚でした。
その後、カメラをつけたダンサーはステージに向かって花道を歩きます。そして舞台上を移動し、踊るダンサーの一番後ろに立ち、今度はゆっくり客席側を向くのです。
私にはその瞬間がすごくエキサイティングでした。

正直、私は客席側を向かれるのがすごく怖かったです。今まで一方的に自分は見る側だと思って客席に座っていたのに、「実はこういう風に見えているんです」という暴露が何だかすごくすごく怖かったんです。集中して公演を見ている時の顔なんて、鏡で見るのと違ってきっとすごく素に近いと思うので、自分の知らない自分の表情を見てしまう気がしたんです。
「じゃあ、意識的に顔を作ればいいじゃないか?」と思うかもしれませんが、公演に見入りすぎていたので、そういう自意識の横槍を入れるようなことはしてはいけない気がしたんです。「暗示にかけられた」とでも言いましょうか。

結果、ダンサーが客席を向いたときの映像からは、客席の細かい様子はほぼ見えませんでした。その代わり、舞台でポージングしているダンサーの背中を見ることができました。

変な話ですがこの時、「この人たちは誰に向かってポーズしているんだろう?」という気持ちになりました。他人である私たち観客に向かってポーズをしているのが、なんだかすごく奇妙なことに思えました。そもそもダンスの公演というのはそういうものですが、「なぜ私達に向かってポーズをとっているんだろう?」「私とこの人たちってどういう関係なんだろう?」「私はどうして今東京にいて、今日表参道に来ているんだろう?」「この人たちはなぜダンスをしようと思ったんだろう?」と様々な疑問が浮かんでは消えていきました。

この公演のwebサイトに、キャッチコピーとして「五感に響く体験をもたらす」という言葉が書かれています。この時受けた印象を表すには「観た」という言葉では足りなくて「体験した」というのがすごくしっくりきました。

お気に入りの作品

公演の中で私が一番好きだったのは、陽気な音楽にあわせて酔ったような動きで踊る作品です。
この作品では花道をつかっていたので、ダンサーの体や表情をとても感じることができました。表情がすごく入り込んでいて印象的だったのと、このパートではそれまで履いていたヒールのシューズを脱いで踊っていたので、その素足が力強くて美しいなぁ、と眺めていました。
しかし、ひとしきり踊って音楽が終わった後、花道に一人残ったダンサーが「やれやれ」というように肩を落とし、酔いが急に冷めたように花道から舞台に戻っていきます。

踊っていたときは素足に力強さを感じていたのに、踊り終わって歩いて戻っていく姿をみると、さっきまで履いていたヒールの靴が無いことがとても儚げに感じられました。
そして何となく、自分にもそういう瞬間があるな、と妙な親近感を覚えてしまい、そういうところも含めて好きな作品です。

それに加えて

ちなみに、この作品ではナース衣装を脱ぎ、その下に着ていた白いシフォンのチュニック風ワンピースで踊りますが、ナース衣装を脱ぐときの展開がすごく印象的でした。

その直前に映像を使ったOPがあり、その最後でダンサー人数分の等身大パネルに、ダンサーの映像が映し出されるパートがありました。その時、最初は衣装の状態で映し出され、その後切り替わるとインナー姿の映像になります。それまでスタイリッシュな雰囲気の作品が続いていたので、いきなり服を脱いでいだ映像が映ったのまずドキッとしました。また、それに対して次にコメディっぽくリアクションをとるのか、セクシーさを出してくるのか、どういう方向に進むのかその瞬間全く予想できませんでした。
実際の展開は次のようなものでした。ダンサー達が服を脱いでいる映像に気づき、自分が着ている衣装をパネルに着せると、インナー姿の映像がパネルから消えます。
衣装をパネルに着せたときに、ふと映像が成仏したように感じました。

これはこの公演全体を通じていえることですが、映像を含め様々なテクノロジー演出が出てくるなか、それが単にプログラムされたものでは無くて、意思を持って動いているように見える瞬間がありました。いろんな種類のパフォーマンスでで映像を使った演出は良く見られますが、elevenplayの場合パフォーマンスに華を添えるためのテクノロジーではなく、ダンスとテクノロジーを融合させることをテーマにアプローチしているからこそ、そういう感覚を見る人にあたえるんだと思いました。

終盤

公演が進み様々な作品が披露される中、前述のように舞台上のものがどんどんはけていきます。舞台上はどんどんシンプルになり、最後はまた、冒頭にあった病院のイメージのダンスで締めくくられます。この時、物がなくなった舞台に、どんどん物が戻っていきます。
西加奈子さん作の言葉が映し出され、最後にこの公演のからくりがとけていきます。
おそらく冒頭の作品のナース達は、私達の体に血を送っている「心臓」で、舞台に立っているマネキンは体の持ち主ということなのだと思います(違っていたらすみません)。

「私たちはいるよ。ずっといるよ / ドックン!」(一部のみ引用)という西加奈子の言葉と合わさると、最初にあんなに無機的に感じられたものが、すごく温かく、健気で、つくしている存在だったのだとわかります。愛しいです。
こんなにスタイリッシュなダンスがたくさん披露されテクノロジーもたくさん使っている上で、最終的にいきついたものがこんなにも有機的で、人間らしさにあふれたものであることが、すごく素敵だなぁと思いました。

最後に使われていた曲は、evalaさんのアルバム「white sonorant」より「c.star」という曲のリメイク版だったそうです。

最後に

20世紀のころ、漫画や映画で描かれる「テクノロジーの進歩した未来」というのは、すごく無機質なものだったように思います。
街の外観は幾何学的で、人々の服装はいろどりがなく画一的。着心地の悪そうなメタリックな素材のものを着ている印象が強いです。

21世紀になった今はそこまでステレオタイプな未来ではありません。ですが、機械やサービスの発達でいろんなことが便利になり簡略化されたことや、電子機器でのコミュニケーションが増えたことで、昔より五感で何かを感じたりすることが少なくなった、という意味では画一的で無機質になってしまったような気がします。
一方この公演は、最先端のテクノロジーが使われていてすごく未来的なものを感じるものの、テクノロジーを使うことで一つの公演が、一つの命を持ったの生き物のように感じられる、有機的で温かい公演だったように思います。
衣装も、ふんわりしたシフォンのワンピースや、後半辺りに着られていた白いセットアップも着心地がよさそうで、ダンサーそれぞれ形がちがって個性的でかわいかったです。

もしも私達の生活の中のテクノロジーが、もっともっと進化した未来がやってくるのならば、こういう優しい未来がいいなと漠然と考えました。